三ツ境店のSORAです。
読み物シリーズ第６回です。
＃優しさの風が吹いたら・・・
心なしか寒い気がした。
変な話だと思う。夏なのに寒いとは。
きっと湖畔の風が運んできた不思議なのだろう。そう思うことにしよう。
久しぶりのドライブで訪れた思い出の詰まった場所。湖が見たくなって車を走らせると、何故かここに来てしまう。妻には「ほかに行くところはないの？」なんて言われるが、私は気の向くままにここへ来る。
湖なのに波がある。足元に揺れる水面を眺めて、物思いに耽るのが好きな時間だ。
波音が聞こえる場所に思い出を重ねる人は多い気がするが、私はそういうわけではなく、ただここでの若い日の記憶を思い出だと思っている。
美化された記憶とも言うかもしれないが、まあそれはそれで構わない。それくらいには年を取った。
ふと深呼吸をしたくなった。
視線を上げると、そこに佇む空は青く色褪せない。記憶の中の色合いと変わらなかった。
買っておいた缶の紅茶をポケットから出して、ゆっくりプルタブを開ける。
スチール缶のプルタブを開けるのは、年を取った今も苦手な指先に苦笑してしまった。
それもまた思い出の中と同じだった。
そんな私を見つめる霊峰は、今も静かに、ただそこに、それでも霊峰たる余裕を漂わせていた。
この景色に日々の喧騒から逃れた安らぎを感じる。
気の向くままなのだから。何かを達成しようというわけじゃない。そんなことでいいのだ。
さて、そろそろ帰るとするか。
妻からの何件かの着信を無視してしまったから、何か言い訳になる土産でも買って帰らねばならないな。
帰りの高速でサービスエリアにでも寄るか。
私はエクストレイルを走り出させた。
さてさて、読み物がたり。
通勤、寝る前、小休止。片手に短い読み物を。
小休止で元気が出たら、三ツ境店に車を買いにいらしてくださいませ。
