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22/09/11 15:35

#あの日の君がいて、今の君がいる

こんにちは!
相模原南橋本店のSORAです!
ショートストーリー第2弾!
いってみましょう!

#あの日の君がいて、今の君がいる



 私はこの日、久しぶりに娘に会いに行こうとしていた。
 ただ、娘が結婚してから私も一人暮らしになり、自然に距離ができていた。
 そのまま行けば、あと10分もしないうちに娘夫婦の家に着く。だが、私はどうにも車を止めてしまった。一度開いた心の距離が足枷となって、私にブレーキを踏ませたのだ。
 別に仲が悪いとか、駆け落ちした娘に会いに行くとか、そんなドラマみたいなことはない。ただ、私は娘にそれなりの苦労を掛けてしまった。その後悔と、何より申し訳なさが心の距離をさらに開いているように思える。



 少し俯いた。それに気付くのに少しの時間を要した。
 何気なく目に映った[nismo]のエンブレムが、少し寂しそうに見えたのは、私の気持ちを投影しているように思えた。
 会いたいはずで、会える場所にいて、それなのに心にブレーキがかかる。
 私は深呼吸でもしようかと車を降りた。



「あれ?お父さん、どうしたの?まさか道に迷ったの?」
 突然の声に、私は一瞬固まってしまった。
「あ、いや、ちょっとね・・・」
「何よもう。もう少しで着くじゃない。どうせなら乗せていってよ」
 大きな買い物袋に両手をふさがれた娘は、私が何か言う前に、車のリヤドアを開けて荷物を積み込んだ。
「行こう。旦那も子供も待ってるから。お父さんが来るなら豪華にパーティーだって。特に旦那が張り切っちゃって」
「ああ、すまない」
 私は心の準備が終わらない間に、癖になっているように謝ってしまった。本当なら「ありがとう」を言いたいのに。
「それにしても、お父さんも車の趣味が変わったね」
 そんな私の表情を見て、娘は気を遣ってくれたのだと直感的に分かった。



「私が小さい頃は車高の低いスポーツカーばっかりだったけど、今の車は最新のハイブリッドじゃない」
 娘は私のオーラニスモをまじまじと眺め、優しい笑みを浮かべていた。
「でも、ニスモってとこがお父さんよね」
 私は何を話せばいいのか、まだ口を開けずにいた。
「かっこいいね。ニスモってことはやっぱり速いんでしょ。そういうところのこだわりは変わってないね」
「乗ってみるか?」
 私はやっと口を開くことができた。
「お父さんがいいなら」
「もちろん」



「なんか不思議な気分。ずっとお父さんの車に乗ったら助手席だったのに。今は運転席にいるなんて」
 娘は先程までよりも明るい表情でハンドルを握った。
「この車は速いけどすごく静かなんだ」
 私の言葉に娘は優しく笑った。
「車のことを話す時のお父さん、やっぱり楽しそう」
 そんなつもりはなかったのだが、私の表情はいくらか明るくなっていたようだ。
 しかし、ならばこそ私は今、この車という存在に背中を押してもらいながら、娘に「ありがとう」を伝えようと決心した。
「あの――――」
「言わないで。いいから」
 娘は私の言葉を遮ると、優しい表情で言った。
「お父さん、ありがとう。あんまり面と向かって言えないから。今日はニスモ君のおかげでちゃんと言えた。車っていいね。お父さんが車を好きになるのよく分かるよ」
 私はとっさに窓の外に目を逸らした。



 私のこらえきれなかった涙は娘に見られただろうか。
 「ありがとう」を言いたかったのは私のはずだったのに。
 これからはもっと心の距離を縮めて―――いや、実は最初から距離なんてなかったのかもしれない。
 気付かせてくれる何かのキッカケさえあれば、もっと早く素直になれる。
 私はこのオーラニスモというキッカケに気付くのに、少し時間を使いすぎてしまったようだ。
「さあ、みんな待ってるから。帰ろう」
「ああ。ありがとう」


さて、今回はスポーツカーを題材にしてみました。
いかがだったでしょうか?

スポーツカーは楽しいですよ!
「みなはし」一同、ご用命お待ちしております!!
 
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