相模原南橋本店のSORAです!
本日はショートストーリー第3弾!
いってみましょう!
#また会えるならダマスクで知らせて・・・

この日、私は少し早く仕事が終わったので、まだ日の暮れ切らないうちに会社を出ることができた。
しかし、少し早く帰れたからといって、すぐに家に足を向けようという気にはならかった。むしろ、少し早く帰れるよりも、今は日が暮れて辺りが夜に染まるまで、なかなか帰る気にならない。
玄関の向こうにあったはずの記憶は、私の気持ちを沈ませるのには充分すぎた。

家に帰る前に比較的すいている商業施設の駐車場に車を停めた。
商業施設の中にあるスーパーで夕食のお惣菜でも買っていこうかと思ったが、なんとなく車をすぐに降りる気にもならず、しばらく目線を落としていた。

無意識にポケットに手を入れる。
煙草の箱に指が当たる。しばらく前に買ったもので、この車に乗り換えた時からは禁煙していて、数本減った程度で箱は少しひしゃげていた。
一本くわえた時、ライターが無いことに気付く。
そうだ。禁煙を決めた時、ライターは捨ててしまったのだ。何か月か前のことで完全に忘れていた。
私はライターを買おうと車を降りた。

「待って」
え?
なんだ?今の声には聞き覚えがあった。どこから聞こえた?何故その声がする?
私は戸惑いながら辺りを見回した。

「どこだ?」
私は取り乱したように周囲を見て回った。
「待って」

声の在り処は分からないまま、私は一度車内に戻った。
すると、車内が懐かしい香りに満たされていることに気付いた。

君が好きだったダマスクの香水の優しい香り。
いつも隣に座って微笑んでいた。
もう君はいないのに・・・
この香り、あの声は君なのか?
「禁煙する約束でしょ?私がいないからって、約束を破るつもり?」
ダマスクの香りの中で、その声は、はっきり聞こえた。
「最後の約束くらい守ってみせてよ。新しい車にしてからはずっと守ってくれていたんでしょ?その煙草、買った時に私も一緒にいたもの。貴方はあれから吸ってないわ」
「君なのか?どうして・・・」
「言ったじゃない。最後の約束くらい守ってほしいから」

俄かには信じられない。彼女の声だ。
「聞きなれてるでしょ。まさか分からないの?」
「いや、まさか。信じられない・・・、けど信じたい気持ちはあるさ」
「それなら信じてほしいわ。こういうのは信じた者勝ちよ」
私の戸惑いと喜びと希望と寂しさは、彼女の声に救われた。
「こんな素敵な車に乗り換えたのも、約束を守る覚悟だったんでしょ。私のダマスクを煙草の匂いで消さないで」
私は煙草の箱を握りつぶした。
こんなことがあるなら、それがもうなくても、今この時を信じたかった。
「ああ、すまん」
私はできる限り寂しさを隠しながら、彼女に訊いてみた。
「また、・・・会えるかな?」

「さあね。それは貴方とこの車とダマスクの香り次第ね」
それで声は最後だった。
私は、まだわずかに残っているダマスクの香りが消えるまで、車から降りることはなかった。
さてさて、第3弾はアリアが題材でした。
いかがだったでしょうか?
アリアに興味が出てきたよ!という、そこのアナタ!
ぜひ「みなはし」へ!!
お待ちしております!